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日々の徒然

DX(デジタルトランスフォーメーション)の分類。

前回、DXに取り組む企業は、DXという手段に飛びつく前に経営課題に着手するべきだ、と書いた。今回は、DXの分類と具体的なイメージ、DXの範疇について書いていきたいと思う。

❏ DXの分類

一般的にDXは下記の3つに分けることが多い。

・System of Record(SoR)

・System of Engagement(SoE)

・System of Insight(SoI)

それぞれの定義はググれば出てくるので割愛し、ここではこれらの具体的なイメージを整理し、各種どのように結びつけたらよいかを考えていく。また、実行しようとしているDXプロジェクトが、これらのどれに当てはまるかのあたりをつけることによって、何ができていないかの全体像が見えやすくなるという狙いもある。

❏ System of Record (記録のためのシステム)

デジタル化と読み替えても良い。要は、日々業務で扱っている情報をデジタルデータとして残すようにして、扱いやすくしましょう、というものである。SoRは効率化のためのDXであり、コスト削減に寄与するが、後述のSoE/SoIの前提にもなることが多い。業務の効率化や自動化に際してはSoRが開発されることになると思う。開発、と書いたが、最近ではSaaSとして提供されているものも多く、データの可視化や処理の効率化、自動化レベルであれば、月額費用を払ってサービスを利用するだけで事足りることが多い。

これとかはまさにSoRのSaaSである。

RPAは、SoRによってデジタル化されたデータを自動で処理するアプリケーションで、自動化まで持っていければ、人件費削減といったわかりやすい効果が出てくる。

❏ System of Engagement (顧客接点のためのシステム)

カスタマーサポートのテコ入れ、NPS測定、デジタルマーケティング、マーケティングオートメーションあたりはすべてSoEの範疇である。SoEで気をつけなければ行けないのは、システム設計の際に、顧客理解という別の能力も求められるということである。単に流行りのチャットボットを入れればいいというものではない。なぜチャットボットが必要なのか、どういうチャットボットがあればいいのかを考えずに、コールセンターをDXしようという号令の元、突き進んでも「これならコールセンターのほうがマシだった。改悪。」となるだけである。

SoEは、次のSoIにつながってくる大事な入り口であり、関わる人材の顧客志向性もそれなりに重要になってくるため、ツール導入で終わることなく、顧客に向き合う組織、顧客を知ろうとする組織を作ることをゴールとしたほうがうまくいくと思う。

❏ System of Insight (洞察発見のためのシステム)

SoE/SoRで貯めたデータを分析し、顧客が何を求めているかを考える土台となるシステムを指す。オペレーション全体がどうつながっているのか、ボトルネックはどこにあるのか?顧客は何を求めているのか?を考えるための材料が入っているデータベースと考えれば良い。

DXプロジェクトにおいて、よくある勘違いとして、データを集めれば何かしらいいことがある、というものであるが、それはない。

集めたデータから顧客が何を求めているかを考え、何をどう変えるべきなのかを考えるのは、現場の人間だ。このあたりの勘違いに対してのアンチテーゼが述べられている良書があるので掲載しておく。

例として、データを持つということを、彼女の誕生日プレゼントを買うために、彼女のウェブ履歴やアプリ履歴やAmazon購入履歴やSNSのいいねをもらえるということと考えて見よう。おそろしく有利であることがわかる。ただし、そこには「誕生日プレゼントを買う」という目的があり、その目的こそがデータを価値あるものに仕立て上げていることに注意するべきである。

ここまでできて、DXプロジェクトが一段落すると考えたほうがいい。SoRだけ、SoEだけで、ビジネス競争力が出ることは稀だ。言い切ってしまえば、DXの目的は「顧客理解に基づく競争優位性の維持/獲得」にある。SoRだけでもコスト削減は期待できるし、SoEだけで顧客ロイヤリティ獲得ができるとは思うが、SoIによってえぐり出した洞察を元に、その源泉である提供価値の改善を含んでいかなければ、遅かれ早かれ苦しい戦いになる。

❏ DXには(微妙に)含まれていないもの

先程、SoIによる提供価値の改善と書いたが、実はここはDXプロジェクトの出来にはそれほど依存しない。

提供価値の改善や転換は、元も子もないが、関わる人材のビジネスセンスの良し悪しに依存する。

例えば、よくあるテーマとして「モノ売りからコト消費への移行」があると思うが、では、今の市場において何をコトと捉えるべきで、自社のモノをコトにするとはどういうことで、誰にどう売れば良いか?という問いに対して、DXで作り上げたシステムが答えてくれるだろうか?否である。

こういった創発的な所業は(いまのところ)人間にしかできず、関わる人間のセンスによって大きく左右される。「今は集められていないデータを集め、可視化し、分析すれば、なにか見えてくるはずだ!」などと思ってしまうセンスの持ち主は残念ながら創発的な事業開発には向いていないと思われる。

世の中のDXに踊らされている人たちは、ユーザーを見ない、頭を捻らない、この2つが顕著だと思う。そりゃそうだろう、入りが「DXをやればなんとかなる」なのだから。そうではない。何度もいうが、DXは手段でしかない。肝はビジネスセンスでしかないし、事業/経営課題を的確に捉える能力である。

DXで事業成長が約束されるのであれば、どんな企業も業績をあげられているはずで、そんな事態にはなっていないということに気付き、妄想や過大な期待を取り払ってから、DXプロジェクトに取り掛かって欲しい。