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Site icon imageちちもブログ

日々の徒然

私腹を肥やすやつがいる限り、イノベーションは生まれない。

なぜ大企業から世の中を席巻する事業が出てこないかという議論については様々な見解があるし、こすられまくっている。代表的なものとしては「イノベーションのジレンマ」が思いつくと思うが、実感としてこんなにハイレベルな罠にハマる以前の問題が大きい気がしている。

イノベーションのジレンマは、確かに構造的に大きな問題だと思うが、大企業がイノベーションを起こせない理由はもっと卑近なところにあるきがしている。大企業がスタートアップにイノベーション創出という点において勝てない理由といったほうが正しいかもしれない。

それは「実行者のインセンティブ不在」である。

要するに、大企業で働く従業員(実行者)に、イノベーションを起こすインセンティブがないということだ。

従業員は、企業(経営陣)から給与をもらいながら働いている。ここ10年で日本の実質賃金は横ばいであり、他先進国と比較しても停滞が著しい。

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図1:G20の先進国における2008-2019年の実質賃金平均指標(基準年=2008年)

一方で日経平均は過去最高を記録するといった具合に、好調な様子を示している。

これらのことから、マクロでは、従業員への還元がされていないことが見て取れる。

通常、株式会社では、経営陣(役員陣)によって株が保有されていて、従業員は、経営陣の指揮命令系統の配下にいる実行者という立ち位置である。経営陣は、業績に対して市場から下される評価である株価に連動した報酬を受取ることができるのに対して、従業員は、経営陣が決定した報酬を受取ることしかできない。

経営陣は、企業の価値を高めることが自己の利益に直結する。そのため「どうしたらより大きな利益が手に入るか」を真に自分ごととして考えることができる。その視点から、新規の事業を立ち上げようとする。自己利益に直結するため、イノベーションを起こしたくて仕方がない。とはいえ、経営陣は実行者ではない。なので、どうしても「どこが儲かるか、どこの市場が伸びているか」という視点を色濃く反映してしまい、「これが社会のためにどう意味があるか、実行者たる従業員はやる気がでるか」という思考は二の次になってしまう。その結果「まあ確かに伸びている市場で儲かるという話もよく聞くテーマで事業を作ることだけは決まっているが、現場は総スカンで納得感がなく、やる気が一切ないチーム」が出来上がる。

この点、スタートアップは、経営陣=実行者であり、経済的なインセンティブにおいては、命令者と実行者の利害が一致している。つまり、実行を頑張れば頑張っただけ、リターンが戻ってくる状態にある。「これで成功しても自分の給料は変わらないんだよな」とは思う状況とは大違いである。そしてもちろん、スタートアップの経営陣は、それがやりたくて起業している。経済リターン以上の意味や価値を見出して事業に向き合っており、大企業の寄せ集めチームとは熱量が比べ物にならない。

実際、この大企業チームとスタートアップがぶつかりあったらどうだろうか。

以前であれば、大企業の資金的バックアップや営業リソースの有無などで勝負が大きく動いたことも多かっただろうが、現在は、消費者のリテラシーも徐々に上がってきており、純粋にサービスや顧客対応の良し悪しで勝負が決まることが増えてきている。現場で戦うのはせいぜい20人対20人程度のチーム単位だ。やる気のない大企業の20人と、情熱溢れるスタートアップの20人では、どちらが勝つかは火を見るより明らかである。これがやる気のない100人と死にものぐるいの10人であっても状況は変わらないだろう。

大企業の経営陣の私腹を肥やさせるために、どうして従業員が死ぬ気になって働くだろうか。工夫して食らいついて良いサービスを成功させようとするだろうか。どう考えてもそのインセンティブはない。

賃金が伸び悩むことが見えている従業員にとっては「ほどほど楽であって、やった事自体がそれなりに評価される仕事」であればそれで良いのである。どうせ給料は伸びない。

この問題を認識できず、インセンティブ設計もままならないまま、新規事業に手を出しても成功するはずがない。もちろん、従業員が負っている責任の範囲、保護される範囲を考えて、固定給というのは相応しいリスクリターンになっていることは全く否定しない。

問題は、そういったインセンティブ設計の中にいる人間に、サービスの質や情熱ややりきりが勝敗を分ける勝負をさせる、ことである。

これに気づいて、従業員へのストックオプション発行など、できるだけ大きく報いろうとする企業が出始めているのは良いことだと思うが、大して何もしていない経営陣が利益をともにするという状況を虚しく思うことも多いと思う。(まあそういう人は起業すればいいのだが、話が変わってきてしまうので触れない。)

聡明な経営者には、自分が誰のおかげで良い思いをできているのか、どのくらい良い思いをするべきなのか、良い思いをしていると思える時点でリターンを取りすぎなのではないかといった、適切な視点を期待したい。