最近よく聞く「メタバース」ってなんだろう?と思って、テクノロジー企業の動きだったり、その背景だったりを調べながら、考えてみたが「サブスクリプション」とか「SaaS」とかそういう類の、”流行りのビジネスモデルをさもそれがすごいものであるかのようにバズらせるためだけのワード” だなという結論に至った。バーチャル空間+アバターでコミュニケーションするやつを、仰々しくメタバースと呼んでいるだけだ。
何を持ってメタバースと呼ぶのか。
メタバースがどんなものであるかだが、一昔前に流行ったが、早すぎて失敗したと言われているセカンドライフだったり、
サマーウォーズの ”OZ” みたいなもので、
ウィキペディアによると、
本義的にメタバースはインターネット上に構築された仮想の三次元空間であり、利用者はアバターと呼ばれる自分の分身を介して仮想空間に入ることでその世界の探索・他の利用者とのコミュニケーションを図ることができ、その他にも仮想世界内の仮想通貨を用いた買い物や、サービス内で商品を制作して販売する経済活動ができたり、利用者自らが作ったゲームなどの、さまざまなコンテンツを楽しむこともできるとされる。
だそうな。
企業が熱心にメタバースに取り組んでいる理由としては、
- メタバースの土台と称される、FortniteやMinecraftといったバーチャル空間上で繰り広げられるサービスがどんどん人の可処分時間を奪っている。
- 一般的に想起されるメタバースのイメージがいかにも未来感があって、人々が時間を過ごす次の場所としてそれっぽくて目耳を集めやすいから。
あたりだろうか。
本質的には、SNSはじめ、インターネット上で発生しているコミュニケーションが、テクノロジーの進化やリテラシーの向上によって、新しい形態のなにかに移っていくということだと思っている。
おそらくすべてのコミュニケーションがメタバース(という次の何か)に移行するというよりは、メタバース上でコミュニケーションすると、楽しいよね、便利だよね、というシーンのコミュニケーションのみが移行していく動きになると思う。まあテック企業は、そのコミュニケーションの大部分が、メタバース上に移ってしまう可能性を考慮して熱を入れているという背景はあるのだろうけど。(メールや電話が消えないにしろ、コミュニケーションのほとんどがチャットになってしまったように。)
バーチャル空間上で自分の代わりとなるキャラクターが、自分の代役として、動き回って、他者とコミュニケーションするというコミュニケーションが徐々に浸透してきているのは、人はどこまで行っても「目の前にいる人と触れ合う」ことが本能的に好きだということに起因していると思う。
離れている人と、リアルで会うより気軽に、場合によっては間をつないでくれる役割をも提供してくれるメタバース上でのコミュニケーションは、それなりに快適で、人間の欲求の根っこの部分を捉えていると思う。
よく、ゲームはメタバースではないみたいな議論を見ることがあるが、より多くの人が、多くの時間を過ごしてくれなければ、それがメタバースであったところで価値はないし、バーチャル空間であってもゲームであっても、多くの人が多くの時間を過ごしていれば価値があるという話でしかない。
故に、ゲームでも何でも、もうメタバースと言ってしまっていいよというか、メタバースメタバース言ってないで、面白くて時間を費やしたくなるコミュニケーションツール作ればそれでいいよとは思う。
世界に1つの大きなメタバースができる?
この先、新しい形態のコミュニケーションプラットフォームは生まれると思う。コミュニケーションに関するものである限りネットワーク効果は間違いなく働くはずだ。既存SNSの勢力図を参考にして考えると、ロシアと中国の2つの国以外はすべてFacebookに制覇されていることから分かるように、最終的には(政治的な都合を除けば)、1つのメタバースに収斂していくことが、”まずは” 予想される。
仮に大きなメタバースが1つ存在する世界であっても、そのメタバースが1企業によって支配されるものかどうかは分からない。Epic GamesのCEOインタビューから読み取ることができるのは、メタバースは共創的な環境である必要があるということ、メタバースのキラーコンテンツはコミュニケーションであるが、時間を消費する価値がなければ、現行の他のエンタメやネットサービスから可処分時間を奪えないのはメタバースも例外ではないこと、多くの人々を惹きつける多種多様なコンテンツがそれこそ膨大に必要であることを考えると(コミュニケーションだけにとどまらず、ゲームやエンタメ、あらゆることができることがメタバースの定義であることを考えると)、1つの企業がメタバースを創造するのではなく、メタバースは様々な個人・法人によって共創されるプラットフォームとなるだろうということである。メタバースでは、国境を超えた通貨のやり取りにブロックチェーンが使われ、特定の条件下ではVRがプレゼンスを持つことも考えられると言っている。
最近この論が好きなのだが、スペックの世界で勝負しているサービスは、1つを除いて生き残れないというのは、メタバースにおいても ”一見” 正しい帰結のように思う。
しかし、メタバースが1つに収斂していくことは無いと思っている。
それはテイストが存在するからである。Minecraftは、あのビット絵ライクな世界観によって確実にプレイヤー層を狭めている。
1つに収斂することが起こり得るとしたら、個々が好きなスキン(mod)を選択して、その世界観を通じて入り浸るといった仕組みが必要になると思う(意味を吸収できる仕組み)。FacebookやLINEといったテキストや写真がベースの情報交換においてはさほど気にならないサービスデザインのテイストというものが、メタバースにおいては大きな意味を持つ。万人受けするテイストが存在しないことを考えると、SNS以上にメタバースは収斂しにくいと思う。
現実的にも、それぞれのコミュニケーションの目的や方向性に応じていくつかのメタバースが出来上がるというのが起きるだろうし、強力な力を持ったプレイヤーが買収などを繰り返してメタバース領土を広げていったとしても、後からサービスの設計やテイストを大きく変えることも難しいため、最終的に1つのメタバースに収斂していくという絵姿は描きにくい。(上記のスキンアイデアのように、アセットなどの見た目だけを特定の世界観に書き換えれるような、アーキテクチャが発明されれば、それがデファクトスタンダードになって、メタバースの互換性が生まれる可能性は否定できない。)
上記のSNS勢力図をみると、あたかもFacebookが世界を飲み込んでいるかのようにみえるが、これはメジャーなコミュニケーションツールで塗りつぶしたものあって、本当は、FacebookもInstagramもTiktokもTwitterもLINEも使いながらコミュニケーションをしているのである。技術的にはInstagramのFacebookへの統合は簡単なはずだが実行されないのは、世界観やサービスの目的までも統合してしまうと、ちょっとした利便性や好みの違いによって薄く広く負ける状態を作り出してしまうからだと考えられる。(Facebookおじさんが使ってるサービスは使いたくないというやつも相まって。)
メタバースにおいても同様の状況が作り出されるとしたら、世界に大きな1つのベーシックなメタバースは存在するも、それ以外にシーン別に使われるメタバースが多くとも10個程度、ベーシックなメタバースよりもアクティビティが高いユーザーを抱えながら並行して存在していくのではないかと予想する。(巨大メタバースが、派生メタバースのほとんどを買収し、ユーザーが好きなスキンで同一の世界観の中で行き来できるみたいなことはあり得るかもしれないが。)
代表的なテクノロジー企業のメタバースの取り組み。
ほぼほぼこの良記事で網羅されているのでそこからの抜粋という形で紹介する。(そこに純粋に生活をしにいくというようなものがメタバースでそうじゃないものはメタバースじゃないとここでも触れられているが...)
https://jp.techcrunch.com/2020/03/16/metaverse/
Epic Games (Fortnite)
特にクリエイティブモードと呼ばれる、バトルロイヤル対戦ではないモードに可能性を感じている。一般ユーザーが作り上げた世界へ遊びに行ったり、最近だと、著名なミュージシャンのライブなども行われている。IPとのコラボも盛ん。Unreal Engineというゲームエンジンを持っており、3D空間を作り込むためのアセットを保有している。すでに多くのユーザーを抱えており「フォートナイトで集まろう」というのも普通になってきている。
HorizonというOculusでプレイできるメタバースサービスをローンチしている。Facebookの興味は、メタバースにもあるのだろうが、メタバースというか次のコミュニケーションの主戦場はどういったデバイスがメインになるかというところにもあると推測する。レディプレイヤーワンの世界を目指してひた走っているのだろうか。
Microsoft (Minecraft)
記事ではLinkedinを持っていると触れられているが、それよりMinecraftのユーザーベースを活かせるというのが大きそう。Minecraftは単なる人気ゲームとして買われたのではなく、メタバースへの足がかりとして買われたと考えることもできる。
Amazon
メタバースそれ自体を開発しようとはしていないはずで、メタバース上で行われる商取引のインフラになるというポジションを狙うはずである。が、現時点では、ほとんどの投資がリアル世界の倉庫や配送インフラに注ぎ込まれており、メタバースのような仮想空間上でAmazonがどういったプレゼンスを発揮するかは正直読めない。
SNSには失敗しているが、Googleの手掛けるプロジェクトは、メタバース上で使用される個々のアプリケーションとしても可能性がありそうなものが多く、最終的にはメタバースでまとめ上げるという計画も不可能ではないのかもしれない。
Apple
クローズドに完璧な世界を作ることを良しとするAppleは、メタバースに興味なしと言い切られている。
Unity
Epic GamesのUnreal Engineと同様、3D空間を作り込むゲームエンジン。スマホゲームシェアでいえばUnityが勝っている。Facebookが買いたかったらしいが、Oculusのアプリケーションを作り込む際にも必要で、コントロール下においておきたいというのはわかる。近々買われるのかもしれないな。
Valve (Steam)
ゲームSNSを指向して作られたSteamだが、いま時点ではゲームの評価が精度高くわかるゲーム販売プラットフォームという立ち位置。VRハードウェアにも近年トライ。
Roblox
記事の著者はGoogleに買収されるのではと予想していた。FortniteよりもMAUが多い。特に子供に人気。UGCで作られたコンテンツがメインであり、凝ったゲームというより、くだらないゲームだったりを友達とワイガヤしながら遊ぶというもの。子供向けメタバースとしてはすでに成立しているのでは?
記事からの抜粋はここまでだが、これ以外にも、
あつまれ どうぶつの森
自分の家や島をこしらえて生活をする、そこに友達が遊びに来て、工夫しながら喋ったり、何気ないイベントを楽しむという、ゆっくりとした時間の楽しみ方は、どうぶつの森ならでは。時間の流れが現実世界と同じというところも。
Soul
性格診断を元に自分のソウルメイトとマッチングされてコミュニケーションが行える匿名SNS。オープンワールドゲームの「原神」を作っているmiHoYoから出資を受けた。SNSとオープンワールドゲームでメタバースを狙うか。
Nvidia
Unreal EngineとUnityに張り合う形で、Nvidia Omiverseというメタバース共創ツールを開発。
Craftopia
自由度の高いオープンワールドゲーム。どうしてもこう、ゲーム要素が入ると、ぱっとコミュニケーションするために使うというような使われ方がなかなかされないのが辛いところだよなと、やりこみ要素が多いものを見ると感じる。
メタバースがSNSに似た進化を辿るとして、ベーシックなものは1つ大きく育つ可能性はある。そのベーシックメタバースにおいては、既存ユーザーのアカウントが活かせるFacebookが有力かなと思う。「メタバース上に友達がいないからコミュニケーションできない、つまらない」といった立ち上がりの悩みはほぼないだろう。そのベーシックなメタバースに架橋する形で、シーン別にいくつかのメタバースが併存すると考えられ、その1つにEpic Gamesはいるだろうな、と、そんな感じの想定でいる。
個人的に可能性を感じる「動画サービス」のメタバース化。
メタバースの火種として取り沙汰されているのはゲームとSNSがメインであるが、多くの人が一緒にバーチャル空間上で過ごすサービスを作るという目的からすると、Youtubeはじめ動画サービスにもそれなりに勝機があるのではないだろうかと思っている。
スクリーンタイムのシェアを見ると、動画視聴(ほぼYouTubeだと思うが)が多いわけだし、リビングルームのような賑わいをメタバースに再現しようとした場合、一緒に同じコンテンツを見て、楽しんで、ワイガヤして、というシーンは、動画サービスとの相性が良いとも思う。
デジタル空間上でデジタルアイテムを作って売って、釣りをして、料理をして、掲示板で友達の近況をチェックして、みたいな「なにそれほんとに楽しいの?そんなことやるか?」というようなイメージよりかは、Netflix上のバーチャル空間で友達や家族と一緒に映画を観て感想を言い合って、その会を開いてくれた人にチップ代わりに仮想通貨を渡したり、追加コンテンツのために割り勘したり、みたいな体験の方がすっと入ってくる。まあ「そういった体験すらも飲み込みますよメタバースは」って話なのかもしれないけれど、そんな何でもできるものは、一般人には利用用途がわからず、一部のクリエイティビティ溢れる人たちだけが楽しんでセカンドライフ化するに違いない。